「徘徊 ~ママリン87歳の夏~」を観て
「徘徊 ~ママリン87歳の夏~」を観てきました。
―認知症だって、一生に一回のママリンの老後―
この映画には、こんなテロップもついていました。
幼年期が一生に一回しかないから、大事にするべきと同じように、
晩年期も一生に一回しかないから、大事にするべきではないか、
たとえ認知症だったとしても。
確かに。
映画を観終わった後、ものすごくこのテロップが胸に迫りました。
この映画では、タイトルそのまま、「徘徊」を主題にしています。
徘徊とは、認知症の問題行動(BPSD)の中でも、
とにかく歩きまわる症状です。
主人公のママリンこと酒井アサヨさんは、
娘さんのアッコちゃんこと酒井章子さんと二人で大阪の北浜に暮らしています。
認知症の症状が出始めてしばらくしてから、
章子さんはお母さんと一緒に暮らすことを決断。
すると、ものすごい認知症の症状がさく裂したそうです。
毎日暴言、暴力、徘徊のフルコース。
しかし、章子さんがすごいのが、
2つの決断をしたこと。
1つ目、認知症の親の面倒をとことん見ていく「覚悟」を決めたこと。
それは、10年間、自分が物心つくまで育ててくれた親への感謝の想いがあったから。
覚悟を決めたら、すごい楽になったと言っていました。
2つ目、母親を家に閉じ込めるのをやめたこと。
「引きこもるのではなく露出系」
徘徊につきあうようになると、ご近所やお店の人の目に留まり、
さりげなく自然に助けてくれるようになったそう。
「隠すのではなくお披露目系」
また、母を連れて居酒屋やバーにも行くし、ご近所さんや友達にも紹介。
それをありのままに受け入れ、日常生活にしてしまう。
「感情の介護ではなく実験系」
記録をとりつつ、傾向をみつつ、
言葉かけのタイミング、方法、対策を考える。
章子さんいわく、
「ママのせいで、生活がめちゃくちゃになったが、
めちゃくちゃが日常になる。
めちゃくちゃからもう一度作り出すという…
あれ、私ってめっちゃクリエイティヴ!?(笑)」
実際、章子さんの記録によると、
過去4年間でアサヨさんが徘徊した記録は下記の通り。
家出回数:1338回
徘徊時間:1730時間
最長徘徊時間:15時間/日
最長徘徊距離:12km/日
すさまじいです。絶対、これだったらめちゃくちゃになりますわ。。。
それでもこの映画、観終わった後、とっても心地よい感覚になるのです。
その理由の一つは、章子さんのアサヨさんへの距離感が絶妙。
章子さんはアサヨさんの徘徊中、少し離れた距離で見守ります。
アサヨさんがピンチになったり困ったりしたとき、さりげなく声をかける。
アサヨさんが救いの手を拒絶すると、また見えないぐらいの距離で見守るという繰り返し。
また、街の人たちも、程よく親切。
家族としても、負担感がない程度の親切さも心地よいです。
また、この映画、淡々としているだけでなく、観ている人に緊張感も感じさせてくれます。
アサヨさんによる「老い」「死」に関する問いかけと、
それに対してコミカルに返答する章子さん。
自分だったらどう答えようという緊張感の中で、
この問答を観ることが出来ます。
ちなみに、施設に入ったら、徘徊出来なくなります。
そういう意味では、家にいるから出来ること。
家で暮らす認知症の方にとって、
徘徊は大事なこと、必要なことなのかもしれません。
それといかに付き合うか。
その理想的な姿の一つがこの映画にある気がします。
ぼくも、認知症の方と、章子さんのように付き合っていきたいと思いました。