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将来への期待が未来をつくる

今日は久しぶりに経営の本を読み切ったのでご紹介です。
藤原先生、青島先生共著による「イノベーションの長期メカニズム 逆浸透膜の技術開発史」。

全く介護関係ありませんし、当社のような規模の会社では全く該当ない話ではありますが…
興味があったので読んでみました。

本書では、社会課題解決技術を企業が事業化するためには、
どのような課題を解決する必要があるのかについて論じています。

昨今SDGsを包括することが大企業では求められていますが、
むしろ企業の技術によって社会課題を解決するという意欲的な会社もあります。

この本では、逆浸透膜技術という、海水を淡水化(塩水を飲み水に)する技術を取り上げています。
東レ、東洋紡、日東電工という日系企業3社で、なんと世界のシェア50%を超えています。
なぜ、水資源が豊富な日本企業が、このような社会課題解決技術を事業化することが出来て、
さらに高いシェアを世界で誇ることが出来たのか。

そもそも、社会課題解決技術と言われるものは、
民間企業が事業化するには様々な困難があると言われています。

たとえば、ニーズと利益の問題。
ニーズは大きかったとしても、そのニーズをもつ人たちがお金がないかもしれない。
また、技術と市場の問題もあります。
現状の技術では、市場のニーズを満たすためのレベルに達することが本当にできるのか。
達したとしても、その投資分を回収できるのか。
さらには、社会と組織の問題が民間企業にはあります。
利益率が低ければ、いくら社会的貢献が出来ても継続のコミットを得ることが出来ません。
こうした、様々な不確実性=リスクが存在しており、これらを乗り越えなければ実現できません。

著者は、逆浸透膜技術でそれが出来た理由について、4つの視点から分析しています。

1点目が、「画期的なブレイクスルー技術」の出現です。
膜の耐久性や浸透率、そして延除去率というすべての重要な性能を兼ね備えた技術が発見され、
それが政府の支援によって開発されたということで公共財扱いになり、
それによって各社の技術が一気に収斂していくことになりました。
コアな技術が統一化されることで競争が起こり、
それによって価格は低下し、市場が広がりました。

2点目が、「初期市場の出現」です。
膜の性能が淡水化に十分でなかったときに、
半導体製造の際に必要な純水化するために転用できることが分かりました。
淡水化に比べれば、市場は広いとは言えませんでしたが、
技術者の給与を支払うには十分であり、開発を継続する正当性を社内で得ることが出来ました。

3点目が、「政府の政策支援」です。
海水淡水化の支援は、1960年代を中心にアメリカで起こりました。
原子力の平和利用というスローガンのもと、巨額の政府支援金が投入され、多くの企業が開発に参入します。
この影響は、デュポンやダウなどの著名企業をベンチマークしていた日本企業にも波及します。
このような当初の予測を超える政策効果は「政策のスピルオーバー」と言われ、
まだ未熟な産業に対する政府支援として、現代でもよく行われています。
ただ、これらは需要の先食いや海外企業による浸食など、気を付けなければ意図せざる結果となってしまうと指摘されています。

4点目が、「経済合理性を超えた論理」です。
個人的にはここが一番面白かったです。
社内的なコミットメントを得るために、技術開発をした会社内の論理に着目されています。

先ほどあげた三社のうち、まず東レ。
東レでは「世界一の技術の追求」という社是をもとにした技術開発が、最も強力な推進力だったといいます。
量産段階に入っても2度中止になるなどの危機を、トップの意思決定と支援によって乗り越え、
逆浸透膜で確固たる地位を築いていくのは、きわめて真っ当な論理のように感じました。

続いて東洋紡。
東洋紡では「脱繊維の構造改革」という社内論理が正当化のための大きなものでした。
戦後の構造転換に巻き込まれた東洋紡には、新しい会社の柱が必要でした。
そのために逆浸透膜技術に挑みます。
しかし、半導体市場では失敗し、全社的な収益悪化に伴い人員は3名まで削減される時期があるなど、
収益のよい他事業を隠れ蓑にしたりしながら非常にすれすれのなかで開発を続けます。
結果、意図せざる絞り込みがヒットし、淡水化市場でニッチな領域で高い収益性を誇ることになっています。
筆者は、「創発的学習能力」といいますが、いわば場当たり的でもそこから何か学ぼうとすれば開ける未来があるということでしょうか。

最後に日東電工。
ここでは、「メンブレン事業の構築」というモットーが正当化論理でした。
会社の経営陣が立ち上げた全社戦略の中に入っていたのがメンブレン事業で、
なんと立ち上げたときに社内には全く技術も経験も何もなかったと言います。
いわゆるゼロからの出発というやつですね。
ここから、任せられた技術者と事業責任者が頑張るのです。
買収も含めた技術開発、使える市場を探すために技術者自身が営業に出るなど、
特許係争の一時的敗北なども乗り越えて、淡水化で大きなシェアを得ることになりました。

本書では、これらの視点をモデル化していますが、大事だと思ったのは次の視点です。

前章までの分析で明らかになったことの一つは、たとえ成功確率がわからなくても、
「この技術はいけそうである」、「これは市場がありそうだ」「これは利益になりそうだ」といった、
産業内や企業内で形成される「期待」の重要性であった。(p.332)

これらの期待が、モデルの数値を押し上げるというのです。

企業や技術に関して、数値や論理が重要なのはもちろんですが、
最終的にはこうした人の「将来への期待」が、未来の技術を生み出す助けとなるのは、
非常に重要なことなのではないでしょうか。

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